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放射能の基準値はどのように決まっているか(1)

この課題に関して私にわかっていることを羅列します。

100年程前のレントゲンやベクレル(科学者の名前です)による放射線や放射能の発見、それに続いた医療や工業利用に伴い、大量の放射線や放射能の利用による身体影響(確定的影響)や発がんなどの影響(確率的影響)が時代を追ってだんだんと詳細に明らかになり、放射能の基準値は、時代とともにだんだんと厳しくなってきており、現在では一般人で年間1ミリシーベルト(実効線量)です。

人間がこの地球に生きてきて、太古より毎年、宇宙線や大地に含まれる放射性物質からの放射線を浴び、また空気中のラドンやその娘核種を呼吸により取り込んだり、食物から放射性物質を取り込んだりして受ける被ばく線量の合計が世界平均で2.4ミリシーベルト(日本人の平均は1.5ミリシーベルト)です。太古よりずっと人間はこの程度の放射線を浴び続けてきており、この程度の放射線には人間は耐性があるのだと思います(放射線により細胞がダメージを受けても、修復する機能がある)。ただし数シーベルトといったレベルの放射線を浴びるともう修復する機能はなくなり死に至ります。

ところで100ミリシーベルト以上の放射線を浴びると、発がんリスクが少し高くなります。具体的には成人が100ミリシーベルトの被ばくで、1万人に1人甲状腺ガンが増加するそうです。1千万人の人がそれぞれ100ミリシーベルトの被ばくなら1000人に甲状腺ガンが増加する勘定になります。ICRP(国際放射線防護委員会)の試算では、100ミリシーベルトの被ばくで成人のガンが0.5%増加とのこと、すなわち200人に1人がガンになる計算です。ところで日本人の死亡率に占めるガンの割合は30%で、3人に1人がガンで亡くなっています。

ガンの発生率が増えるか増えないかのぎりぎりの被ばく線量は、成人では100ミリシーベルト、子供は30ミリシーベルト程度と考えられているそうです。このレベル以下では発ガンが観察されていない、もしくは有意に検出されていないということだと思います。ガン発生は放射線以外の原因でも起きます。発ガンをその原因が放射線と特定するのはなかなか難しいと思います。特に被ばく線量がそれほど大きくない場合はなおさらです。

それでは飲食物摂取制限する指標について、どのように決まったか。国が定めた防災指針によると以下の通りです。

指標の数値そのものは以下の通りです。

   ヨ ウ 混合核種代表核種:ヨウ素131)について

  牛乳乳製品

300ベクレル/kg 以上

  根菜芋類く。)2000ベクレル/kg 以上

   セ シ ウ ム(セシウム134Csセシウム137)について

  水、牛乳乳製品

200ベクレル/kg 以上

   類肉・その他について

500ベクレル/kg 以上

(ちなみに輸入食品に対する我が国の輸入規制値は、放射性セシウムについて370ベクレル/kgまたは370ベクレル/リットルである)

  放射性ヨウについて

ICRP Publication 63 国際的動向まえ、甲状腺等価線量50mSv基礎として(筆者注:実効線量だと約2.5mSvか)、飲料水牛乳乳製品及野菜類根菜芋類く。)の3つの食品カテゴリーについて指標策定した。なお、3つの食品カテゴリー以外穀類肉類等いたのは、放射性ヨウ半減期く、これらの食品においては、食品中への蓄積人体への移行程度さいからである。

3つの食品カテゴリーにする摂取制限指標算定するにたっては、まず、3つの食品カテゴリー以外食品摂取考慮して、50mSvの2/3を基準とし、これを3つの食品カテゴリーに均等に1/3ずつてた。における食品摂取量考慮して、それぞれの甲状腺等価線量相当する各食品カテゴリー摂取制限指標単位摂取量当たりの放射能)を算出した。

放射性セシウムについて

放射性セシウムびストロンチウムについても飲食物摂取制限指標導入必要性認識されたことをまえ、全食品飲料水牛乳乳製品野菜類穀類及そのの5つのカテゴリーにけて指標算定した。

指標算定するにたっては、セシウムの環境への放出には89Sr90Sr(137Csと90Srの放射能比を0.1と仮定)がうことから、これら放射性セシウムびストロンチウムからの寄与合計線量をもとに算定するが、指標値としては放射能分析迅速性観点から134Cs137Csの合計放射能値いた。

具体的には、実効線量5mSv各食品カテゴリーに均等に1/5ずつて、さらににおけるこれら食品摂取量及放射性セシウムびストロンチウムの寄与考慮して、各食品カテゴリー134Cs137Csについての摂取制限指標算出した

したがって飲食物摂取制限する指標は、セシウム134とセシウム137とヨウ素131からの3核種(ウランやプルトニウムについても指標があるが、今回は今までのところはウランやプルトニウムの大量放出はないようだ)で、1年間摂取し続けて飲料水および食物摂取だけで年間約7ミリシーベルト(実効線量)の被ばくとなる線量である。民間人の基準値である年間1ミリシーベルトを超えてしまう。今回はさらに実際にはこれに外部ひばくや呼吸による内部ひばくが加わる。さらに他の放射性核種やかなりの量が放出されていてまだ測定されていないトリチウム(H-3)などからの被ばくの寄与も加えなければいけない。なので全体として見たときに、飲食物摂取制限する指標(暫定値)は、もっと厳しい値にすべきであると思うのですが、いかがでしょうか?

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コメント

もともと全体のうちの個々の影響の占める割合をあいまいなまま、適当にある特定の要素だけもってきて、5つあるから、1/5にした、というのに違和感を感じます。全体の中の5つで95%を占めるから、残り5%は無視して、5つそれぞれを1/5というのなら納得できますけど。
それと、基準値についてよくわからなくしてしまっているのは、もともとの基準値があるにもかかわらず、それをそのままにして、矛盾した基準値を勝手に作っていることに尽きると思います。結局、「もとの基準値が厳しすぎるから」というような言い訳をよくききますが、それだったら、元の基準値を変更したうえで、新たな基準値を示すべきと思います。「元は厳しすぎるから、本当はこのくらい大丈夫」というのなら、飲酒運転の基準値なんかどうなのよ?ってことになりますね。「このぐらい飲んでも事故を起こすことはない」って言ってるのと同じことですね。

投稿: TAGA | 2011年4月10日 (日) 23時14分

ちょっと質問させて下さい。

> 100ミリシーベルト以上の放射線を浴びると、発がんリスクが
これは「大気拡散と放出放射能(2)」で書いておられるように、1度に被曝した場合ですか?それとも一年間に?

■放射性ヨウ素が
> (等価)線量50mSv/年を基礎として(筆者注:実効線量だと約2.5mSv)
なので、実効線量に換算して1.66mSv/年
■放射性セシウムが
> 実効線量5mSv/年
それで計ヨウ素+セシウム=6.66mSvになるわけですね?

プラス
> さらに実際にはこれに外部ひばくや呼吸による内部ひばくが加わる。
> さらに他の放射性核種やかなりの量が放出されていてまだ測定されていない
> トリチウム(H-3)などからの被ばくの寄与も加えなければいけない

ということで…
本当は計0.75mSv(実効線量)くらいが望ましい?どちらにしても、後だしジャンケン的印象は否めませんね。

今後は各自が自分で決めた線量を超えないよう生きて行かなければならないのですよね。それには、食品売り場などで、産地とともにグラム辺りの放射線量を記載するのが理想的なのでしょうか?(現実的かどうかは別として)

> 今までのところはウランやプルトニウムの大量放出はないようだ
今後も無い事を祈るばかりです。「夢なら醒めて欲しい」と今まで思った事がなかったのですが、 原発事故以降は毎朝思います。

投稿: zun | 2011年4月11日 (月) 07時27分

TAGAさん 
私は今の基準値が厳しすぎるとは思いません。その濃度の野菜や牛乳を飲食しつづけると、なにがしかの影響がでるのでは、と思います。ただ、その濃度が続かず一時的なものであれば、農家や酪農家の方々のことを思えば、多少は汚染した牛乳や野菜を飲食するのは仕方ないかな、と思います。日本が原子力発電を選択している以上は仕方のないことかもしれません。

ずんさん
100ミリシーベルトの影響が観察されているのは、1回照射の場合だと思います。少しずつ被ばくを蓄積して100ミリシーベルトの場合は影響が出るのが少なくなると思います。ただ小線量でも細胞レベルでは影響がでるので(もちろん放射線照射を受けて壊れた細胞は修復しますが、修復のケースがあまり多いと、修復プログラムがたまに間違う場合があるようです)、余分な放射線は浴びないに越したことはありません。

リスク評価という分野があります。日本で交通事故にあって死ぬ確率が1/10000(日本では毎年交通事故の死者が1万人です、1万人/人口1億人=1/10000)。こうしたリスクを受け入れることができるのがたとえば1/100000の確率なら受け入れられるだろうという仮定に基づき、いろいろなリスクを評価するのです。冷徹な学問でそれなりに意味がありますが、そのリスクを受ける人にとっては受け入れがたいものがあります。いつかこの問題も取り上げてみたいと思います。

投稿: 寒立馬 | 2011年4月11日 (月) 22時32分

更に詳しい解説ありがとうございます。

なるほど、リスク 0/0 はありえないわけですね。
自分や家族が食品や空気から負ったリスクが現在どのくらいなのか
認識出来るようなシステムがあると良いなと思います。

投稿: zun | 2011年4月12日 (火) 01時15分

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