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2011年10月

福島原発事故 放射線はどこまでなら浴びても良いか?

福島原発事故により放出された放射能による被ばくに関して、日本社会に混乱が拡がっているように思われる。ICRP(国際放射線防護委員会)の最近の報告書 「放射線関連ガンリスクの低線量への外挿」を中心に考える。ICRP(国際放射線防護委員会)は放射線影響に関する専門家で構成され、放射線の生物影響に関し、最新の知見を定期的にとりまとめ、多くの勧告をICRP出版物として出している。それらの勧告は、多くの国に取り入れられ各国の法令が制定されており、我が国も例外ではない。

ICRP パブリケイション99 「放射線関連ガンリスクの低線量への外挿」は、20068月に刊行された。この報告書は低線量被ばくでのがんリスクに関する証拠について、特に一般公衆と放射線作業者の防護上の勧告値を下回る線量についても考察している。

 疫学調査、細胞学的研究、動物実験等に関する620報の文献を精査し評価している。ちょっと高いが日本アイソトープ協会から翻訳本も出版されている。比較的分かりやすく解説しているので、興味のある方には一読をお薦めする。

本報告書の結論は以下の通りである。

1.疫学調査から明らかになったこと:線量反応関係が存在する、他因子によるその修飾がある。低線量―極低線量域では、放射線関連リスクの推定は大変不確実となりやすい。よって、低線量低線量率における放射線関連リスクの推定には、依然として中線量―高線量における観察に基づいたリスク推定値を外挿することが妥当である。

2.疫学あるいは実験発がん研究から1 ミリグレイmGy1 ミリシーベルトmSv)オーダー又はそれ以下の線量への被ばくが発がん性であるという直接的証拠は存在しない。いくらかのバイアスの可能性はあるものの、10 mGy10 mSv)のオーダーであれば胎児の場合はがんリスク増加の証拠がある。原爆被ばく者データからは、放射線ガンリスクがほぼ直線的な線量反応をもって100-150 mGy100-150 mSv)の線量まで存在することの良い証拠を提供している。

3.全体として、実験発がん研究からの関連する動物腫瘍データは、低線量では、しきい値のない直線性の線量反応関係を支持する傾向にある。発がんの線量反応における低線量しきい値存在の主張は支持されないであろう。

4.放射線関連寿命短縮についての実験的研究では、幅広い線量域で、直線的な線量反応が示唆されている(寿命短縮が認められる)。

5.電離放射線には、多くの傷が空間的に近接して見られるというユニークなタイプの損傷を生ずる性質がある。たとえ1個の飛跡でも細胞を通過すればこうしたユニークなクラスター損傷を生ずるかもしれない。細胞には、DNA損傷の修復と傷ついた細胞を排除するため多くの損傷応答メカニズムが備わっているが、これらのメカニズムは誤りなしではない。また近接した傷は修復機構を危うくする。それより下の線量であれば全ての放射線誘発損傷が忠実に修復されるという線量の存在を強く支持する事実はない。

6.がんリスクにおける、例えば低LET放射線の数mGy(数mSv)レベルの真の低線量しきい値が存在するか否かという問題は、決して解決されることはないかもしれない。LNT理論は放射線防護という実務的な目的のためには最も思慮深いモデルであることに変わりはない。

以上のポイントは、放射線はこれ以下なら安全であるという「しきい値」は存在せず、浴びた量に比例して、発がんのリスクは高まる、ということなのであろう。10 ミリシーベルトのオーダーで胎児の場合はがんリスク増加の証拠がある、との記述もある。低線量しきい値が存在するか否かという問題は、決して解決されることはないかもしれない、ということは真実なのであろう、したがって線量・効果関係に直線仮説を採用することは妥当なのであろう。直線かどうかということには議論の余地があるが。

ところで人間の体の中には、体重60kgの人には放射性カリウム(40K)が約2000ベクレル(Bq)、放射性炭素(14C)が約3000ベクレル(Bq)、これらの他にも、放射性のウランやトリウムなども存在している。放射性カリウムは半減期が永く、地球ができた時から太古の昔より存在し、放射性炭素は宇宙線により常時生成している。これらの放射能は食物に含まれ、主に食物を通して我々の体に入り、蓄積される。生きていく以上、食べ物を食べないわけにはいかないので、これを避けることはできない。どんどんたまっていかないのは、代謝される(排泄される)からである。1ベクレル(Bq)とは1秒間に1本の放射線を放出する放射能であり、我々の体の中からだけでも、いつも毎秒5000本以上の放射線が飛び交い、細胞を傷つけていることになる。これだけの放射線環境のなかでがんにもならず、我々が生きながらえることができるのは、我々の体に、細胞が傷ついても修復したり、壊れた細胞を殺してしまう機能が備わっているからである。

しかし、さらに余分な放射性物質が体内に入って来たときに、それらからの放射線に対して受ける細胞の損傷などの影響を修復する機能が、どれだけ余分に備わっているか、不明な所である。多少は大丈夫なのであろうが、その余裕度は、せいぜい生涯線量で100mSvは余分に受けてもまあ大丈夫、といったところなのだろう。自然放射線から人が受ける被ばく線量が、内部被ばくと外部被ばくを合わせて世界平均で一人あたり年2.4ミリシーベルト(mSv)、日本人の場合は年1.5ミリシーベルト(mSv)であるから、80年生きるとして、生涯では世界平均一人あたり約200ミリシーベルト(日本人なら120ミリシーベルト)の被ばくということになるので、その数割増までは大丈夫で、公衆の被ばく限度が自然放射線による被ばくの他に年1ミリシーベルトというのは妥当なところであろう。

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